疫学(Epidemiology)は、Epi(~の上に)、demos(人々)、logos(学問)という3つの要素が1つになった語であり、社会で起こりつつある現象を観察・分析して、どんな特徴を持った人が病気にかかりやすいか、法則性を見つけ出す方法です。そして、疫学の目的は、疾病あるいは健康異常の発生を規定する因子を明らかにすることによって、これらの疾病や異常を予防することです。
疫学の成果としては、たばこ(喫煙)が広範で強い健康被害をもたらす因子として他に例が見られないほど重要なものであることを明らかにしたこと、労働時間と急性心筋梗塞や精神疾患の関係を明らかにしたことなどがあげられ、人の暮らしの向上に重要な役割を果たしています。
疫学研究の方法
複数の人間の集団において、ある病気の発生に差があるかどうかを調査し、その差が統計学的に偶然起こりうる以上のものかどうか(統計的に有意であるかどうか)を評価して、要因と病気の関係を推測します。
例えば、喫煙と肺がんの関係を調査するときは、ある集団において「タバコを吸う人」と「タバコを吸わない人」の間で病気の発生状況に差があるかを、統計的に調べ関連性を推定します。
疫学研究の結果
疫学研究の結果において、統計的に有意な関連性が確認されても、その結果から直ちにその因子と影響との間に因果関係があると結論づけることはできません。疫学研究で用いられる「関連性(association)」という用語について、「疫学辞典(John M. Last編、日本疫学会訳)」では以下のとおり解説しています。
「関連(association)は、偶然による場合や、さまざまな別の状況によってみられる場合があり、関連があることは、必ずしも因果関係があることを意味しているわけではない。」
因果関係の判断基準
疫学的に因果関係を検討するプロセスを示すために作成されたものが「因果関係を検討するためのガイドライン」で、下表はその内容を示したものです。
因果関係判定のためのガイドライン(注1)
時間的関係性 | 原因は効果よりも時間的に先行しているか(必須) |
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生物学的妥当性 | その関連性を支持する他の知見が存在するか (作用機序、実験動物での結果) |
関連の一致性 | 他の研究で同じ結果が認められているか |
関連の強さ | 原因と効果の間の関連はどれ位か(相対リスク) |
量-反応関係 | 曝露の増加に伴って効果(健康影響)も増加しているか |
関連の可逆性 | 原因と思われる要因を除去することによって疾病のリスクが減少するか |
研究デザイン | そのエビデンスは、しっかりした研究デザインに基づいたものか |
エビデンスの判定 | どのような種類のエビデンスに基づいて結論に至っているか |
(注1)「WHOの標準疫学 第2版 日本語訳(木原雅子・木原正博監訳、三煌社)」より
疫学的な因果関係の有無については、上記ガイドラインの観点で総合的に検討、判断する必要があります。